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記事2003年10月13日 1908号 (8面) 
118年の伝統に輝く共立女子学園が本館完成
社会に貢献できる女性育成

共立女子学園学園長・理事長
石橋 義夫氏

【21世紀担う私学像】
 創立百十八年の伝統を誇る共立女子学園(石橋義夫学園長・理事長、東京都千代田区)は神田一ツ橋キャンパスの整備を進めているが、九月二十九日、待望の本館(新校舎)が完成した。この新しい教育研究環境の下、長い伝統の中で培われてきた共立女子学園の教育理念の再構築が図られることになる。


神田一ツ橋に本館誕生
教育理念の再構築


 明治十九年の創立以来、三世紀にまたがり果たしてきた教育研究機関としての使命を遺憾なく発揮することを目指し、学園では神田一ツ橋キャンパスの教育研究環境の整備計画を進めてきた。
 この計画は創立百周年を契機として立てられ、八王子キャンパスの充実、全学的な情報教育環境の整備などを進めながら、八王子キャンパスの環境整備がひと通り終了した平成三年ごろから具体化に向けて動き出した。
 平成六年からは「神田一ツ橋キャンパス再構築計画」として、全学的体制で検討を進めてきた。そして、ようやく平成十三年十二月に本館の起工式が行われた。
 石橋理事長によれば、当初、新校舎の建築は高層化を目指し、二十三階程度の規模を考えていたという。しかし、学園財政の健全化や中学・高等学校の教育環境の早急な充実・整備の必要性もあって、高層化という構想に代わり、神田一ツ橋キャンパス全体の再構築基本構想をまとめることになった。
 その結果、一万三千平方メートルの敷地に、鉄骨造り、地下一階、地上十五階建ての新校舎(本館)が生まれた。本館は大学、短大、事務局ゾーンとして、神田一ツ橋キャンパスの中心的施設となる。本館は、日本文化史に名を残す歴史的建造物である共立講堂に隣接しており、また文教地区にふさわしい調和のとれた景観を重視し、周辺には十分な緑化が施された。

学生生活をサポート
知的活動の活性化などコンセプトに


 本館建設には五つのコンセプトが貫かれている。第一に、人に優しい学習生活空間。何よりも学生の生活施設であることから、快適性、利便性を重視した。館内の随所に学生生活をサポートするきめ細かな配慮が施されている。例えば事務室を一、二階にまとめることによって、学生が履修や生活に関するサポートを気軽に受けられるようにした。事務室では電子化による事務サービスも行われ、あらゆる面から学生生活を応援していく。
 第二に安全優先設計。外部からのアクセスおよび講義や実習間の移動については、安全性を最優先に考えた動線を実現。万一の非常時における避難に際しても十分に配慮された設計となっている。
 第三は知的活動の活性化の創出。時代とともにますます多様化する教育・研究ニーズにソフト、ハード両面で応える。学習施設の充実はもちろん、館内全体が勉学に集中できる知的イメージで統一されている。すべての講義室に最新の機器を整備し、生涯学習も含め、多様な講義形態に対応できるようにしている。また、上階層の二フロアを使い、広々としたスペースが確保された図書館は、勉学に、読書にと、利用できる落ち着いた空間となっている。
 第四に省エネルギー対策と緑化志向。白山通りに面した敷地部分は都市計画道路であるため、建物を大きく後退させ、豊富な植栽を持つオープンスペースとなっている。こうした既存緑地の保全とともに、新たな緑化にも取り組んでいる。地上六十メートルから神田地区を一望できる屋上庭園では、自然緑地を再生させ、建物の熱負荷低減にも役立つ省エネタイプのビオトープがやすらぎの景観を生み出している。第五に時代を先取りしたIT設備。これまで学園が構築してきた先進的なネットワーク環境をさらに推進。上・中・下層にバランスよく配置された情報処理演習室は、コンピュータを自由に利用できる。学生の主体性を尊重し、自学自習を支援する。

完全中高一貫制実施
伝統と新しさの調和


 また、共立女子中学校・高等学校の完全中高一貫制も構想中だ。現在は高等学校で二クラス新たに生徒を募集しているが、これをやめ、中学から高校まで八クラス体制で完全中高一貫教育を行うというものだ。
 石橋理事長によれば、平成十八年度から実施する予定で、既に現在その準備に入っているという。
 生徒の知的好奇心を引き出す深い学び、気品ある女性をつくりあげるためのしつけの徹底、みずみずしい感性を育てるための質の高い芸術や文化との触れ合い、といった共立女子学園ならではの特色あふれる教育を、六年間の一貫教育で、すべての生徒がよりよく身につけられることになる。
 共立女子学園はこの百十八年、どんなに時代が変わっても持ち続けなければならない、女性としての矜(きょう)持(じ)や礼節を大切にした教育を行ってきた。しかし、一方でまた常に社会からよりよい学園として認知されるべく、変化を続けてきた。
 共立女子学園はこれからも常によりよいものを求め続けて、伝統と新しさが調和した教育を展開していく。

女性の社会的自立目標に
理想的教育研究環境を実現


 本館の完成を受けて、今後は引き続き外構・環境整備に取り掛かるが、平成十六年度以降、さらに中・高校舎棟(現一号館)、中高特別教室棟(四号館)、大短アネックス(仮称、三号館)の改修工事に着手する。
 こうした一連の神田一ツ橋キャンパスの整備を進めることによって、現在では中高生と大学生が同じ校舎の中に同居しているといった不便さも解消され、理想的な教育研究環境が実現することになる。
 二十一世紀における私学は、社会との関係をより強く意識し、開かれた学問の場として、社会から認知され、将来を約束できるようにする必要があるというのが石橋理事長の持論だ。
 また、女性の社会的自立というのは学園が創立以来、脈々と受け継いできた教育目的の一つでもある。
 その意味で、神田一ツ橋キャンパスの教育環境整備は単なる校舎の建築にとどまるものではなく、こうした学園の理想を体現するにふさわしい、二十一世紀における共立女子学園の教育研究基盤の構築であるということができる。

新しい時代の女子教育具現
短大に看護学科を設置

設置認可申請中

 私学でも男女共学化の流れが広がる中で、石橋理事長は女子教育に徹することでこそきめ細やかな教育が実現できる、女子校だからこそ可能な教育があると断言する。
 初代校長・服部一三ほか三十四人の先覚者が発起人となり、女性に専門的知識と高度の技能を修得させ、女性の自主性と社会的自立の育成を目的として創立された共立女子学園。この建学の精神は「誠実・勤勉・友愛」を指針として、明治から今日まで連綿として貫かれ、女性の社会的地位の向上に大きく貢献してきた。いま女性の高学歴志向や社会進出が一層加速する中で、学園はこれまでの伝統と実績を踏まえつつ、新しい時代の女子教育を展開しようとしている。高い知性と教養、技能を備え、内外に広い視野を持ち、個性を発揮して社会で自立して活躍できる女性。温かく思いやり深い心を持ち、品位高く、人間性豊かに家庭や社会に貢献できる女性。こうした女性の育成に、学園は総力を上げて取り組んでいる。
 来年四月には、神田一ツ橋キャンパスの共立女子短期大学に新しく看護学科が誕生する(文部科学省に設置認可申請中)。既設の生活科学科、文科とはまったく性格を異にするが、医療という世界の中で自ら考え、行動できる人材を育成する、建学の精神に沿った新学科である。
 創立時の共立女子職業学校では、「病人の扱い方」(現在の看護学)が履修できるようになっていたし、明治四十四年に認可された高等師範科でも「看護」という科目が正式に設けられていた。その後今日まで、それらが独立して看護学の学部や学科になることはなかったが、創立以来、看護学関係の科目は、女性の学ぶべき重要な科目とされた。
 今回の看護学科の設置は、今日の社会的要請にも十分応えられる、時代を超えて生きている学園の建学の精神に沿ったものだ。石橋理事長は、看護師の資質のレベルアップはわが国の教育界の課題の一つであり、学園もこれに大いに貢献していきたいと話す。

三井記念病院の協力で
優秀な看護師を養成


 今回の看護学科新設は三井記念病院の全面的な支援と協力により計画された。同病院は明治三十九年に、三井家総代の三井八郎右衞門氏が設立した病院で、二十六の診療科を持ち、最新最良の医療を提供する、わが国有数の病院となっている。総合健診センターや特別養護老人ホームも併設しており、病院実習はもちろん、就職に至るまで、同病院の全面的支援が得られることになっている。石橋理事長は同病院とのコラボレーションで、間違いなく優秀な看護師を輩出できると自信のほどをのぞかせている。
 看護学科は入学定員百人、収容定員三百人、修業年限三年。三井記念病院がこれまで運営してきた三井記念病院高等看護学院の看護師養成の実績を継承する。
 人間の生命と健康に直接かかわる看護師の仕事には、豊かな人間性と高い倫理性が必要とされるが、共立女子短期大学では既設の生活科学科、文科がこうした面での教育に半世紀以上の実績を持っており、両学科と看護学科との間で特定の授業科目を開放し合うことも予定されている。今日の医療の急速な進歩にも十分対応できる質の高い看護師が看護学科から生まれる日が待たれる。
 一方、共立女子大学でも時代に対応した改革を進めている。創立当初からの伝統を誇る家政学部は、常に新しい時代の流れ、感性を取り入れながら、伝統と新しさが融合した学問の場となっている。少人数制による実験・実習を通して、すべての人間が生きていくうえで重要な衣・食・住を総合的に学び、人間生活を向上させるための実学教育を実践している。
 今年創設五十周年を迎えた文芸学部は、七コースからなり、幅広く豊かな教養を養うために、自由度の高い履修システムを採用している。ゼミナールが一年次から開講されるのも特徴の一つで、討論や発表を中心とした授業で、学生各自の個性や主体性、積極性を早期から養う。
 平成二年に女子大学では初の「国際文化」という名称を持つ学部として発足した国際文化学部は、これまで国際社会で活躍できる人材を育成してきた。年々、国際化、情報化が進む社会のニーズに対応して、平成十四年度に大幅なカリキュラムの改革を行い、今年度から実施している。二年次から四つの文化コースに分かれるが、いずれのコースでも従来の学問の枠を超えて、文化を多角的総合的にとらえようとしている。
 現在、共立女子大学はこの三学部体制だが、将来的には学部増設を考えていると石橋理事長は明かす。具体的には社会福祉、介護、臨床心理といった、女性の活躍が見込め、今後更に社会的ニーズの高い分野を構想中だという。学園では今日の少子化、十八歳人口減少を見据え、平成六年度から将来構想を検討する委員会を設け、議論を続けてきた。今年十二月には、指針をまとめる予定だ。

地下1階、地上15階の神田一ツ橋キャンパス本館


5階ラウンジ

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