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記事2003年2月23日 1881号 (2面) 
中央教育審議会の審議動向 国境超え競争激化
質の高い留学生で大学の市場価値向上へ
“日本との架け橋になる施策を”
  中央教育審議会大学分科会留学生部会の第二回会合が一月二十八日文部科学省別館で開催された。今回は、七人の委員および専門委員からの発言があり、それについての自由討議が行われた。

【大学分科会留学生部会】

 中嶋嶺雄委員は大学間での競争がますます激しくなり、市場化する留学生交流について意見を述べた。特に、アジア太平洋地域の大学の生存競争が織烈化し、質の高い留学生を一人でも多く受け入れて、大学の市場価値を高めようと懸命になっている。
 つまり、留学生は商品であり、高等教育が重要な輸出産業となっている現状、それに対して、日本では中国からの留学生が急増し、留学・就学ビザを得た留学生総数は十四万人近くになり、なかには就学目的を偽り、就労、あるいは犯罪に走る者もいて、社会問題にもなっている現状を報告した。
 荻野アンナ委員は自身の留学体験や遠藤周作氏の小説を例に、長期的な日本の将来ビジョンが大切で、ゆとりと質が問題であり、海外からの留学生に対しては奨学金の支給や宿舎の整備が急務で、留学生が将来、日本との架け橋となるような施策が必要だと述べた。
 佐藤弘毅委員は、すでに九万五千人近い留学生を受け入れながら、その量的目標達成の陰にある、留学生の質、大学の受け入れ態勢の質、国等の支援の質について現状を報告した。
 佐藤次郎委員は日本語教育施設について言及し、就学ビザで来日し、日本語を学んだ後、大学受験をする留学生の現状を十数年間の調査をもとに報告した。日本語学校の生徒は、現在、中国、韓国、台湾出身者三国だけで九四%が占められ、留学生の増減は入国審査の厳格化と簡素化に影響を受けていると述べた。これに対して、留学と就学の二種類のビザがあるのは日本だけで、差別に繋がるのではないか、また地方都市ではアルバイトをする留学生が増えて、労賃が安くなり、日本人の職がなくなっているという発言もあった。
 自由討議では、欧米からの留学生が少数であることの理由、大学で留学生との交流が少ない現状、留学生の受け入れ理念との齟齬、産学官民が協力した留学生の支援、日本人学生、社会人の海外留学への支援、留学生の卒業後の追跡調査の必要、魅力ある大学にするための方策、大学間の情報交換の必要などについて活発な議論があった。
 また、中嶋委員は現在の中国人留学生の増加はある意味で中国の進学熱、大学の受け入れ能力不足や一人っ子政策など、中国社会の縮図が見える。さらに、日本人の国際交流政策を含めて、留学生政策は、文部科学省の能力が問われていると述べた。

【基本問題部会】

異文化理解の観点から 宗教教育の役割など討議

 中央教育審議会は二月十七日、都内のホテルで二十六回目となる基本問題部会(部会長=鳥居泰彦・慶應義塾学事顧問)を開き、教育基本法の見直しに当たって課題として残っている宗教に関する教育の在り方と学校教育の役割として何を規定するかを討議した。
 宗教に関する教育の審議に当たっては、初めに検討課題を列挙した「検討メモ」が事務局(文部科学省)から提示された。これは、これまでの審議やヒアリングでの有識者の発言内容等を整理したもの。大きく分け四点からなっている。
 (1)宗教に関する寛容の態度の育成(今後とも教育で宗教に対する寛容の態度を尊重することをどう考えるか)
 (2)宗教に関する知識の教育と、宗教が社会生活において持つ意義を理解させる教育(異文化理解の観点から世界の様々な宗教についての教養が求められることについてどう考えるか。宗教が社会生活において持つ意義を理解させる教育をどう考えるかなど)
 (3)宗教的な情操を涵養する教育(特定の宗教のための宗派教育との境界線が大変微妙との意見もある中で法律に宗教的情操の涵養を規定するか)
 (4)特定の宗教のための宗教教育(国公立学校における特定の宗教のための宗教教育や宗教的活動を禁止する規定を引き続き教育基本法におくことについてどう考えるか)
 これらは今春の答申の宗教に関する教育部分の骨子となるもの。
 この日の議論では宗教に関する寛容の態度の育成については、今後とも教育の中で尊重していくべきだとの意見が複数聞かれ、また異文化理解の観点から日本と世界の様々な宗教についての知識の教育、それを踏まえて宗教が社会生活において持つ意味を理解する教育についても複数の委員が必要性を指摘したが、同時に宗教の持つ危険性(宗教対立・戦争やカルト集団等)にも触れるべきだ、文化の中で宗教が重要な要素を占めていることに言及すべきだとの意見も聞かれた。また宗教的情操に関しては法律に規定する必要はないとの意見が複数聞かれた。
 一方、学校の役割に関しては、「幼稚園から大学までの定義を基本法に簡潔に書くことは難しい。学校教育法に任せた方がよい」「学校の役割・機能は変化する。教育基本法に書き込むと、より改正が難しくなる。学校教育法の方がよい」との意見が複数あった。
 次回二月二十四日の会合では大学など高等教育の位置付けの明確化、私学振興の重要性を踏まえての規定、子供は教員その他の指導に従って、規律を守り、真摯に学習に取り組む責務があることの規定を検討する予定。
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