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記事2003年7月3日 1895号 (3面) 
新世紀拓く教育 (6) ―― 普連土学園中・高校(中高一貫)
宗教教育、ボランティア、体験学習実施
思いやり、必要とされる喜び知る
  普連土学園中学校・高等学校(畠中ルイザ校長、東京都港区)は、一八八七年、キリスト教フレンド派(クエーカー)の人たちによって女子教育のために作られた学校である。簡素の精神を旨とし、当初から手作りの教育を実践してきた。現在も「小さいことはよいことだ(small is beautiful)」をモットーに、一学年三クラス(一クラス四十五人)と小規模、中高完全一貫の中で行き届いた教育を行っている。なかでも、創立当初から行ってきた宗教教育・ボランティア活動・体験学習を、建学の精神〔神の種子を育てる〕を実践するものと位置づけ、HRの時間や聖書(宗教)の授業、学校行事を通してさらに活発化させている。
 例えば、普連土学園の一日は始業前の礼拝で始まり、終拝で終わる。月曜・火曜は講堂で全校礼拝。水曜は各自が心の中で神との対話を心がける二十分間の「沈黙」。木曜はクラスでのホームルーム礼拝。金曜は中高の自治会役員の担当による全校礼拝を行う。
 礼拝の中では、教職員や生徒たちが順番にみんなの前で“お話”をすることになっており、内容の多くは日常の経験を踏まえたものだ。最近の生徒の発表では、「イラク戦争をただ見ているだけではなく、平和維持に自分がいかにかかわっていくか」「報道は報道する側にとって都合のよい報道がなされるため、自分できちんと見極めなければならない」「幼児期に大切にしていたおもちゃを、周りのプレッシャーもあって捨ててしまったけれども、これからは自分にとって大事なものを大切にしたい」「自分をやっと肯定できるようになった」など、生徒たちの心の働きや思いが感じられる話が多い。
 聞く側の生徒たちがそれを自分たちのこととして共感するというだけでなく、何より“お話”をした生徒がその後精神的な成長を見せるという。
 ボランティア活動・体験学習については、中学一年生から高校三年生まで、成長に応じたプログラムが組まれ、学年ごとにテーマに沿って実施されている。
 中学一年のテーマは「視覚障害について」。まず盲導犬を連れた視覚障害者の方からお話を聞き、その後、アイマスクをし白づえを持って校内を歩くという体験をする。点字も学習する。
 中学二年のテーマは「聴覚障害について」。聴覚障害者の講演を聞いたり、手話を習う。生徒はたいへん覚えが早く、手話で聴覚障害者と話せるようになる。最近、聴覚障害をもつピアニストに講演をしてもらったところ、生徒たちは大変感動し多くの示唆を受けた様子だった。
 中学三年では「身体障害について」学習する。生徒たち自身が車いす体験をすることによって、街路に潜む危険性に気づくようになる。
 高校一年は「知的障害について」がテーマとなる。知的障害は接する機会も乏しくどのようなものなのかという理解が難しい。そのため、まず卒業生で知的障害児を持つ方に来ていただいて話をしてもらい、理解を深める。その後全員が、少人数に分かれて約三十カ所の施設や作業所に出かけ一日体験をする。
 こうした活動の後では、生徒は知的障害も他の身体の障害と同じく一つの特徴であり、共に社会をつくっていくことが大切だと認識するようになる。
 高校二年生には「高齢化問題について」をテーマとして与えている。講演やビデオなどで、高齢者は障害を複合して抱えている存在であることを認識させた上で、高齢者の生活を疑似体験させている。
 高校三年では「奉仕活動のまとめ」として、これからの生き方を話し合う。ボランティア活動の時間は学年で差があるが、だいたい年間十時間。そのほかに一日体験も盛り込んでいる。
 この幅広いボランティア活動を裏で支えているのは、教職員、卒業生や保護者である。高校一年生の一日体験では福祉に携わる卒業生が体験先を紹介してくれた。最近では施設側も非常に協力的で、生徒を快く受け入れてくれる。とはいえ、あいさつの仕方から言葉づかいまで、生徒たちへの細かい指導は欠かせない。施設体験では、熱心に車いすを磨いたりして普段とは別の顔を見せる生徒もいる。自分の日常に感謝の気持ちを持つようになり、体験後自主ボランティアを始める生徒もいる。
 このような活動を通して、人を思いやる気持ちが芽生えるだけでなく、人から必要とされることの喜びも知ることができる、とボランティア担当の先生方は言う。
 しかし、奉仕活動に時間を割くことで進路に支障を来すのではないかという懸念に対して、畠中校長は「進路と奉仕は対立しているものではなく、生徒たちが自分のことを学び、知る、大切な機会ですので、応援してくださいとお願いしています」。そして「学園は生徒にも、卒業生にも、安心できるところ、もう一つの家庭です」と言う。
 使い込まれた木作りの机やいすにも家庭の温かさが感じられる。生徒たちが迷路のようだと言って喜ぶ独特のデザインの校舎も築三十五年になる。最近、耐震補強を施した。畠中校長は「素晴らしい校舎です。あと五十年は使いたいです」。

ホームルーム礼拝で祈る生徒たち


聴覚障害者と話せるよう手話の練習

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