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記事2004年10月3日 1951号 (5面) 
新世紀拓く教育 (27) ―― 芝浦工業大学柏中学・高校
若い世代から政治への正しい認識を
全校生徒で参院選の模擬選挙を実施
 今年、七月十一日の参議院議員選挙投票日を目前にした八日、九日、芝浦工業大学柏中学・高等学校(佐藤正行校長、千葉県柏市)は、中学一年の希望者と、中学二年から高校三年までの全生徒を対象に、未成年模擬参議院選挙を行った。模擬選挙は、昨年十一月の衆議院選挙に続いて二度目となる。中心となって動いたのは、同校の社会科教員と生徒会で、学校側の全面的なバックアップと、未成年模擬選挙を全国規模で実施しているNPO法人(特定非営利活動法人)ライツの協力を受けた。
 選挙期間中は「投票所」となる校舎昇降口の壁面に各政党のポスターが張られ、付近にマニフェストも置かれた。この模擬選挙では投票用紙に書き込むのは政党名だけだ。
 投票は、中学生が七月八日、高校生は同九日に行われた。投票箱は昇降口付近に置かれた。投票時間は昼休みと放課後。二重投票のないよう、生徒会の生徒が生徒名簿をチェックしながら投票用紙を手渡した。投票箱は、昨年はタンボール製だったが、今回は実際の投票箱と同じものを用意した。投票用紙を入れる時、本物の投票箱は投票用紙を二つ折りにしなければ入らないといったことも、生徒たちにとっては小さな発見だった。
 社会科公民を教える杉浦正和教諭は、「今回の選挙では、自民党と民主党のマニフェストの違いがいまひとつ明確でなかったため、迷う生徒が多かったようです」と選挙期間中を振り返る。
 開票は、公職選挙法の「人気投票の公表の禁止」にふれるため、十一日以降に行われた。投票率は全校で五六・四%、有効票総計は六百二十三票。各党の得票率は、自民党三二・八%(実際の選挙三○・○%)、民主党三五・六%(同三七・八%)、公明党一○・七%(同一五・四%)、共産党一○・三%(同七・八%)、社民党八・三%(同五・四%)だった。実際の選挙と同じく、民主党が最も高い得票率だった。
 ちなみにライツの未成年模擬選挙(全国)の結果は、参加校三十一校、街頭での投票も含めて投票総数四千八百二十六票、得票率は自民党三四%、民主三一%と、こちらは自民党が辛勝した。今回の模擬選挙参加校のうち、学校全体で取り組んだのは芝浦工大柏中学・高校と埼玉県立岩槻高校だけだった。
 同校が模擬選挙に取り組むことになったきっかけは、日本における若者の投票率の低さだった。武蔵工大高校生意識調査(平成十二年)によれば、二十歳で選挙に「行く」と回答した生徒はわずか三三%。将来的にも若者の選挙への参加は高まりそうにもない結果だ。同校でディベートの授業を行っている杉浦教諭は、生徒たちの社会への関心は決して低くないと感じていた。しかし、それが投票には結びつかない。生徒たちの気持ちの中で政党や政治家、選挙への関心が非常に低いからではないか、模擬選挙をやってはどうかと提案し、社会科教員の間で意見がまとまり、学校のバックアップも受けることができて、全校規模での導入となったのだという。
 「選挙は民主主義の根幹です。なのに、学校教育の中で選挙に行く教育をしていない。学習指導要領には、その意義を教えることとなっているが、それだけでは将来の投票行動にはつながらない」(杉浦教諭)
 過去、日本でも学生による過激な政治活動が行われたという記憶からか、「模擬選挙に対して消極的な教育委員会もあります。しかし、選挙管理委員会は概して危機意識が強く、積極的です。生徒たちに、現実に存在している政党を身近なものとしてとらえさせ、選挙に行くこととその能力を育てて訓練することを、学校教育が行うべきではないか。それが、将来、投票率を上げることにつながる。結果として、社会参加意識を高め、スムーズに社会人へ移行していくことにもつながる」と杉浦教諭は言う。
 同校が、昨年、初めて模擬選挙に取り組んだとき、政党名や党首名、党首の顔さえ知らない生徒もいて、まずそこから授業の中で教えていった。
 生徒たちの方はといえば、模擬選挙をイベントの一つとして結構楽しんでいる様子が見受けられた。模擬選挙後のアンケートを見ると、選挙期間中、政党やマニフェスト、党首についての話題が、生徒同士だけでなく、家庭の中でも話されることが多かった、と感想を書いた生徒がたくさんいた。「投票日に、親に選挙に行くよう促した」という生徒もいた。なかには、「自分が参加しなければ日本はだめになる」(高一女子)といった意見も出るほど、意識を強く持つものもいた。
 また、選挙期間中、街頭でマニフェストを配付している選挙運動員に、同校の生徒がそれをほしいと言ったが、もらえなかったということがあった。その生徒も近い将来、選挙権を得る。「若い世代に政治に関心を持ってもらう努力が、政党側にも必要ではないか」と杉浦教諭は言う。
 ライツによれば、世界百四十九カ国で十八歳選挙権を導入しており、サミット八カ国中、七カ国が十八歳選挙権としている。日本では十八歳選挙権導入がまだ表舞台には出てきていないが、世界の潮流は十八歳選挙権。今は模擬選挙でも、将来、日本でも高校生が投票所に行く時代が来るかもしれない。
 今年、同校はスーパーサイエンスハイスクールに指定され、新たな取り組みが始まった。付属の芝浦工業大学の学長はノーベル物理学賞の江崎玲於奈氏。科学・工業分野では実績のある学園の中で、「来年は千葉県知事選挙が予定されている。その時はまた、模擬投票を行いたい。そして、未成年模擬選挙を本校の伝統にしたい」と杉浦教諭は話す。


本物と同じ投票箱に模擬投票する生徒たち

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