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記事2004年2月23日 1925号 (3面) 
「中学は私学」過去最高に 2004年首都圏私立中学入試
 「中学は私立」、こういうイメージは首都圏の小学生の親の間ではもはや常識となり、私学受験の流れは加速しつつある。日能研進学情報センター調査によると、二〇〇四年の首都圏中学入試の受験者数は約四万三三〇〇人と昨年(四万二〇〇〇人)を上回り、小学校卒業生の中学受験率は一四・八%(昨年一四・六%)と過去最高記録を更新した。

併願が増加、東京、神奈川の組み合わせ
要因はサンデーショック


 今春入試の特徴は併願が増えたことだ。その一つの要因として、一月から試験を開始する千葉、埼玉と二月から開始する東京、神奈川の組み合わせを有効活用する受験作戦がある。
 その影響で特に千葉、埼玉の受験者数の伸びが大きかった。
 千葉、埼玉の小学校卒業生はまず地元一月入試を受けたのち、二月から試験が始まる東京の私立中学を受験する。千葉では渋谷教育学園幕張が一次で二五七五人と過去最高、市川、東邦大学付属東邦(前期)、芝浦工業大学柏、専修大学松戸、麗澤もほぼ全入試で増加した。埼玉では浦和明の星女子、大妻嵐山、立教新座、城北埼玉、開智、栄東、西武学園文理、春日部共栄などがさらに人気を高めた。東京、神奈川の小学生は昔は東京、神奈川の地元校を受験するだけで一月受験は少なかったが、今は併願の対象校を広く求めて一月にもどこか受験するのが普通の現象となった。千葉、埼玉で腕試しをしておいてその結果を参考にして作戦を練りながら二月には地元へ帰り受験する方法が定着した。
 第二の特徴は二月から入試開始の東京、神奈川では、プロテスタント系の多くの学校が日曜の入試を行わないため、例年有名校が目白押しに並ぶ二月一日(日)から入試日を動かした学校が特に女子校に多く、普通なら併願できなかった組み合わせの受験も可能となった。受験業界ではこれを「サンデーショック(またはサンデーチャンス)」と呼んでいる。

試験回数も増え平均2、3回
人気上昇も二極化


 たとえば例年二月一日試験の女子学院、フェリス女学院、東洋英和女学院、立教女学院などが二月二日へ移動、プロテスタント系でないため二月一日に止まった桜蔭と併願可能となった。逆に二月二日入試だった湘南白百合は二月一日へと移動した。同じくカトリック系の横浜雙葉は二月二日に移動した。ここはフェリスとは併願不可能となり、第一志望生が多く集まることとなった。
 そのほか一月には函館ラサール、土佐塾、佐久長聖、西大和学園、函館白百合などといった寮のある全国の有名私立中学も入試を行っているので千葉、埼玉に遠い神奈川の小学生ではそういった有名中学の東京試験会場へ流れるものも多くなっている。
 一校が行う試験回数も増えてきている。首都圏の私立中学校の数は男子校、女子校、共学校合わせて三〇〇校くらいだが、一回限りの入試はごく少数の難関校だけで、各校平均して二〜三回入試を行う勘定だから、首都圏の中学入試回数は八〇〇〜九〇〇回ある。また午後入試も昔は「少し変わった方式」的な見方をされがちだったが、いまでは定着してきて、カリタス女子が二月一日の午後に入試をするので午前中に他校を受験した生徒が回ってくるといった現象も普通に見られるようになった。
 受験生の平均併願校数は九八年から〇三年にかけて、四・四校↓四・六校↓四・七校↓四・八校↓五・〇校↓五・三校と上昇し続けてきたが、二〇〇四年には五・七校となった。
 それだけ多く受験するとなんとなくチャンスが増えた感じを受験生は持ちやすい。特にサンデーショックで女子有名校の併願ができるようになったため、女子受験生は男子に比べて強気の受験作戦を立てたものが多かったが、入学定員が増えたわけではないので、その結果はうまくいかず、二次志望でランクを落としたり、第二志望受験校の棄権が減ったりすることになった。男子の受験生はそれに比べると抑え気味の作戦を立てて堅実な結果を狙い成功した例が見られる。
 人気上昇の私学だが、その中でも上昇度の激しい学校とそうでもない学校とに二極化が進んでいる。大学進学実績はもちろん必要だが、それだけではない。その差は未来を感じさせる学校説明会のアピール力にある。男子校の浅野(神奈川)の受験者数二四四七人は神奈川の男子受験生のほぼ半数が受けている勘定になるが、この吸引力は進学実績があるうえにほがらかな校風が親を引きつけたといわれる。駒場東邦、聖セシリア、藤嶺藤沢、鎌倉女学院なども説明会の成功した例といえる。

図書館、実験室充実に力
教育の理念で公私差別化


 「生徒の生活の場は広く居心地よく」をモットーに新校舎を造った学校も多い。いまは多くの家庭にもパソコンはあるので視聴覚教室などよりも、力を入れているのが図書館や実験室。フェリス女学院の理科室や恵泉女学園の図書館は素晴らしいと評判である。攻玉社、大妻、麴町学園なども特徴ある新校舎だ。
 学費問題も安ければ良いということではない。入学後にいくらかかるのかをあいまいにせず、金額についての説明がしっかりしているかどうかが保護者の判断の分かれ目となった。品川女子学院はパンフレットの中にソックスの値段まで載せているし、日本女子大学附属は実験教育の充実ぶりなどが人気の要因の一つとなっている。
 ところで公立校の反撃も〇五年から本格化する。都立では白鷗(仮称・台東地区中高一貫六年制学校)を皮切りに都立中高一貫校が次々と登場してくる動きが出ている。国立大学付属校は大学の独立法人化で先行き不透明なため最近伸び悩んでいたが、学芸大付属大泉の中高一貫化構想など、人気復活の動きが見られる。保護者が負担する教育費にかける公私間格差は、早急に是正され、税金も公平に使われるべきだ。
 しかし日能研進学情報センターの井上修副所長は「もはや、それを非難する段階は過ぎた。競争相手が来年から登場する時、私学は迎え撃つ態勢を確立しなければならない。非難はぐちっぽく聞こえる」と言う。
 「都立の中高一貫校の中には進学成績をかなり上げる学校もあるでしょうが、教育における理念を大切にする点で公立は私学に到底及びません。
『社会の発展のため、そして人生を過ごす上で、大事で素晴らしいことを見つけた。この思いを若人に伝えたい』『人生を豊かに歩むことのできる神の教えを知った。この教えを伝えたい』など、私学の創立者たちが学校をつくろうとした思いがあって私学はつくられ、その思いに賛同した人たちが教師として、生徒として集まり私学は発展した。その思いこそが私学の真髄であり、公立学校ではまねのできないものであることを旗印として高く掲げて闘うべきです」――井上氏はそう強調する。


入学書類を手渡され私立中学合格を家族と喜ぶ受験生

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