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記事2005年2月23日 1969号 (2面) 
「全入時代の大学づくり」テーマに学長会議 私大連盟
基礎学力の低下と大学教育の在り方

浦野 光人氏


大西 直樹氏

日本私立大学連盟(会長=安西祐一郎・慶應義塾長)は、一月十八日、「全入時代を迎える二〇〇七年に向けて」をテーマに平成十六年度第二回学長会議を東京・市ヶ谷の私学会館で開催した。討議の柱は、「基礎学力の低下と大学教育」「全入時代における大学づくり」の二つ。大学を取り巻く環境が大きく変わる中で、大学の教育研究活動の方法と内容の方向性および入学者受け入れ方針・教育方針を探ろうというもの。当日は安西会長のあいさつ、担当理事の在幸安・日本大学総長の発題趣旨説明のあと、パネルディスカッションと参加者によるディスカッション・フリートーキングが行われた。パネリストは、国際基督教大学の大西直樹教授のほか、産業界からニチレイ社長の浦野光人氏、全国高等学校長協会長を務める小栗洋・都立新宿高校長が招かれた。ここでは各パネリストの意見発表の概要を報告する。

【産業界が求める大学像=z
浦野 光人氏 
(株)ニチレイ代表取締役社長、(社)経済同友会教育の将来ビジョンを考える委員会委員長

総合的な教養教育
問題解決、課題発見能力を育成


 産業界が大学に求めるものは、一つは「総合的教養教育」。二つめは「社会生活の課題解決に立ち向かう幅広い職業人の養成」です。幅広い職業人の養成については、専門学校等もあり、いまや人材を大学だけに頼る状況ではない。三つめは、「知的先端人と向学心の強い学生の集団としてフロンティアを拓(ひら)く」ということです。経済同友会の二〇〇三年の提言「若者が自立できる日本へ」の中で、大学では哲学的思考、人間観を深める教養教育(哲学・歴史・文学・芸術・科学等)を重視し必修としてもらいたいということ、さらに、大学の中で何をするかが目的となっていない学生が多いことから、入学試験重視から卒業試験重視とし、一定の成績に満たないものは留年・退学も辞さないということをきちんとやってほしいと述べています。インターネット時代のいまは、大学で知識を教えるだけでは価値がない。大事なことは、人生観や職業観を先生方とひざ突き合わせて議論をしていく、あるいは論理的説明能力や、知識を論理的展開の中で発展させていくことです。ぜひ、大学では、問題解決能力、課題発見能力の形成をやっていただきたい。
 アンケート調査によれば、企業の新卒採用の選考方法・基準で最も重視するのは面接の結果であり、熱意・意欲、行動力・実行力、協調性が重視される。出身校の重要度は極めて低い。これからの大学教育への期待ですが、一つは自ら課題を発見し、考え、行動する人。その上で、得意分野を持った人、自ら動機付けできる(人生観や社会認識などを持っている)人。さらに国際社会で活躍できる人であればもっといい。こんな完璧(かんぺき)な人はいないでしょうが、より近づけた人を輩出してほしい。
 大学改革については、評価システムの整備、特に事後チェックが非常に弱い、PDCA(プラン・ドウ・チェック・アクション)のサイクルを継続的に回していくことが大切です。大学の役割については、高等教育全体の中でどう考えていくか、大学の役割は何か、ユニバーサルアクセスに関してなど、もう少しまとまった議論をしてみてはどうか。また、各大学が自らの歴史、伝統、社会のニーズ等を勘案して、UI(ユニバーシティー・アイデンティティー)を再構築してほしい。
 学生に求めるキャリアマインドとしては、その企業に入って世の中に役に立つどんな仕事ができるのかという意味での情報収集をしていただきたい。また、キャリアに対する冷静さがない。失敗を許さない、敗者復活戦がない、だからいったん選んだキャリアに固執するところがあって、そこに企業とのギャップが起こる。人生は何度でもやり直しがきく。転職は自由だという冷静さを持っていただきたい。
 学力低下問題については、課題形成力がないのではないか、それが知識が足りないということにすり替えられているのではないかと思う。経済同友会の出前授業で生徒たちを見ていると、「みんなに感謝する」という心がない。だから世の中のためにやるという気持ちがない。そして、自信を失っている。中学の段階で、「聞く・聴く・訊(き)く・ストンと腑(ふ)に落ちる」という、この体験がないからです。社会に出てからは、生活者が困っている問題はないか、正解のない課題を見つけるのが産業界の役割ですから、そのためには頭が痛くなるほど考えなくてはいけない。大事なことは、働く仲間が自分の価値を発揮し、お互いに価値を認め合いながら協働する。そして働くことを通して自己実現を図っていく。こうしたことを大学の中でやっていただきたいと思っています。

【少子化と学力低下に向き合うためのGPA】
大西 直樹氏
国際基督教大学教養学部教授、学術博士(専門はアメリカ文学・アメリカ学)

GPA制度を導入
履修登録制限で緊張感拡大


 これからの日本の大学は、どうしてもGPA(グレード・ポイント・アベレージ)制度を取り入れなければいけない。そして、履修登録制度を大幅に見直さなければいけない。アメリカの大学でも危機といわれた時代がありましたが、十八歳人口でない学生をたくさん受け入れるなどして活性化してきた。また、例えばほとんど勉強しない子供たちが入学してきたとき、どうやって大学教育にのせていくかを工夫してきた。その工夫の一つがGPA制度です。「大学というのは知識の受け渡しではなく、物事をとらえるハウ・ツウ・シンクである。学問的精神の全般的取得、指導的な態度が大事だ」。これは、一八七三年、マサチューセッツ農科大学をつくろうとしたウィリアム・S・クラークの言葉です。彼はこの農科大学にリベラルアーツを持ち込み、どのように考えるか、という教育をやった。それを札幌農学校でも行い、日本にいたわずか八カ月の間に、農業経営者になる人たちに文学・哲学・世界史・イングリッシュポエジーなどを教え、しかも十三人という少人数教育をしたことを、私たちはもう一度思い返してみなければならない。
 そこで一つの問題は、新しい教養教育をどうするかということです。しかし、どんなに面白そうな学問を提供したところで、過去の問題の答えを知っていれば成績は取れるというような学生であるならば変わらない。そこでGPAシステムがどうしても必要になるわけです。二〇〇四年には、GPAシステムの導入大学は百十四校(文科省調査)に広がっている。
 では、GPAシステムとは何か。これは成績を数字化して、その平均点を求めて、その学期の成績を数字で学生に告げるものです。その数字を使って学生を大学の教育の中で有意義な方向に転換させていく。そこで重要なのは、成績不良者の処遇です。従来は、成績が悪くても、八年間の間に単位を累積していけば卒業できた。しかし、GPAの成績が平均点より下がっていた場合、多くの大学は退学勧告をしようということですが、これは除籍にすべきだと思います。成績不良の場合、まず成績が持ち直すようにいろいろアドバイスして、それでも成績不良が一年も続くようであれば、その人はその大学にいる能力がなかったのだと判断せざるを得ない。その時に、除籍が厳しいならば自己退学していただければいい。つまり、大学は、はっきりとした自分の大学のクオリティコントロールを打ち出すべきではないか。GPAを導入するためにどうしても必要なのがアドバイザー制度です。特に、マイナスの成績をアドバイザーが学生に手渡しながらアドバイスをすることが大事です。そこに人間的なつながりもできる。そういう指導を保つために、今後、日本の大学は少人数教育に移行していかなければいけない。少子化は、少人数教育への転換のチャンスです。
 もう一つ大事なのは履修登録制度の大幅な見直しです。学生は自分が修得する単位数を超えて登録し、いわゆる保険登録して、途中で取れない科目を放棄していって、試験を受けた単位だけを取っている。放棄した科目については記録も残らない。ですから、履修登録を制限して、成績が悪ければEが付く、Eが付くとGPAの点が悪くなる、という厳しさを分からせなければいけない。それによってキャンパスがもっとピリッとしたものになると思います。


発題趣旨説明をする在日本大学総長

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