第3回今後の教育課程等の在り方有識者検討会
安宅・慶應義塾大学環境情報学部教授招き
シンギュラリティが間近な時代の教育などについて聴取
文部科学省の第3回今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会(座長=天笠茂・千葉大学名誉教授)が3月24日、オンラインと対面のハイブリッド形式で開催された。今回は、ゲストスピーカーとして安宅和人・慶應義塾大学環境情報学部教授を招き、シンギュラリティ(AIが人間の英知を超える技術的特異点のこと)が近づいているとされる時代に必要とされる教育などについて聴取した。
安宅教授は、ヤフー、ZOZO、Lineなどをグループ会社にもつZホールディングス株式会社のシニアストラテジストも務め、全社横断的な戦略課題の解決、事業開発などに携わっている。
安宅教授は「最近登場した最新のChatGPT―4では国会答弁の99%が自動化できると言われている。今後、人間がChatGPTに勝てるのは専門領域のみではないかとの推測がある中で、こうした時代に教育課程の転換を考えることは慧眼(けいがん)である」と述べた。
安宅教授は、日本の理系大学院生の人気就職先企業として、歴史の長いメーカーが多く挙がっているのに対し、アメリカの工学系学生に人気の企業は、SpaceⅩ、テスラ、アップルなど、テクノロジー系の新しい企業であると語り、AIを使い、プラットフォームを持つ企業が不可欠な存在となり、新しい価値を生み出していくとした。
また、安宅教授は「日本で今、貯金がない世帯が全体の3分の1もある。この貧困は日本がアメリカのような産業を生み出してこなかった結果である。AIやデータを使いこなせる人材を育成することは貧困を生まない社会には欠かせない。教育での文理分断は論外の話。高校を卒業した半数の人が社会に出ることを考えると、中等教育からデータサイエンスを教えることは不可欠で、データリテラシーは新しい時代の読み書きそろばんに匹敵する」と語り、早期のデータサイエンス教育の重要性を強調した。
さらに、「希望を持ち明るい未来を描ける人になるには、空気で左右されないで自分で判断する力、言いたいことを言語化し、人に伝える力、人と交わり課題や価値を察知する力を養うことが必要で、これらの力を育てられない教育には価値がない」とも話した。
ChatGPTの活用に関しては、「ChatGPTの教養は深いので、人間が勉強しなければならない逆説的な状況にある。プロンプトエンジニアリング(AIに指示を与えるコマンドを分析・構築する手法)を中学校以降でよいので学び、ChatGPTを使いこなしてほしい。教師はChatGPTに恐怖を感じ始めているが、人間のためにあるものなので、共存し、どうやって使い尽くすかを生徒や学生と一緒になって考えてほしい。教師のリスキリングがボトルネックになる可能性が高い」と教師のリスキリングの重要性にも言及した。
委員との意見交換では委員から、「学習指導要領の冒頭にあるフィロソフィーが浸透していないのは、入学選抜システムが間違っているからではないか」との意見があった。
それに対して安宅教授は、「現状の入学試験は100%間違っている。基本的には全人格的に判断し、その学校がどういう人間を育てたいかを考え、それに即した適性を見るべきだ。論文を提出させても当てにならない。それよりも顔を合わせてインタビューするほうが効果的だ」と話した。
また委員の「学生の人気企業の職種がアメリカと日本では異なっているのは、教育制度に要因があるのか、人生の意思決定が遅いのか」との質問に、安宅教授は、「日本の人気企業は、倒産はしないが成長はないだろう。学生がこういった企業を選択するのは、親が自分の若い時代の経験から間違った指導をしているからではないか。親の言葉に疑問を持つことも必要だ。データやファクトから分析し、おかしいことはおかしいと言語化できる能力はできるだけ早い時期から養っていくのが大切」と話した。