文科省科学技術・学術審議会人材委員会を開催
高校の探究活動を聴取
高大連携の効果など発表
文部科学省の科学技術・学術審議会の人材委員会(主査=狩野光伸・岡山大学学術研究院ヘルスシステム統合科学学域教授)は2月5日、12期となって5回目の委員会を開いた。この日の委員会は平成13(2001)年の第1回から都合100回目の節目の回。第12期の人材委員会は、(1)博士後期課程学生への経済的支援の充実とキャリアパスの多様化、(2)産業界における博士人材の活躍促進、(3)研究人材の流動化と安定性の両立等を主要論点としており、(1)では、大学における学生への支援体制の充実、大学院教育カリキュラムの充実、次世代人材育成等裾野拡大も視野に入れている。
この日は初等中等教育で探究活動への取り組みが必須となり、高等教育に繋がる教育が重要となってきていることから、高校や教育委員会に実情や課題等を聴取し意見交換したもの。
具体的にはスーパーサイエンスハイスクール(SSH)における探究学習の取り組み等について、愛媛県教育委員会と京都市立堀川高等学校からヒアリングを行い、人材委の委員が発表者と質疑応答を行った。
まず愛媛県教育委員会指導部高校教育課からは松山南高校における、文科省のスーパーサイエンスハイスクールと、「えひめ版STEAM教育」研究開発事業の取り組み、生徒の将来の進路選択やキャリア選択に繋がる取り組み、大学入学後の研究に繋げるような指導、高大連携の効果、卒業生の進路等についての成果等が発表された。同高校普通科では新しい価値を創生する人材の育成を目指して学校設定科目「STEAM探究」や産学連携型の課題研究(企業とライセンス契約をし、購買ビックデータを活用している)、また理数科では大学接続型の課題研究(愛媛大学の研究室における課題研究)を、「えひめ版STEAM教育」研究開発事業ではプログラミング教材(レゴSPIKE PRIMEや3Dプリンタ)を活用した授業実践・課題研究等を行っており、愛媛大学等との連携で世界で活躍する研究者等を輩出していることなどを説明した。
一方、堀川高校では「自立する18歳」の育成を最高目標に「探究基礎」に加えて、学校行事や進路指導など教育のさまざまな場面で「探究」を軸に据えていること、日常生活でもなぜかと考えることが増え、多面的に考えることができ、必要な情報の抽出、アプローチ方法の選択肢の増加、考えを文章化する力、自身の探究テーマを語れるのは自分だけという自信が付き、また各界の第一人者の講演会等を通じて高い目標を持つこと、幅広い教養の必要性を感じることができ、生徒組織ではリーダー性、協働性、臨機応変に対応する力ができているという。同校の大学院修士課程への進学率は40%強、同博士課程進学率も30%近い水準にあるという。
愛媛県教委では、「STEAMのAはアートに限らず、アグリカルチャー(農業)と解釈して取り組むことも考えている」と語っており、堀川高校では「起業する生徒が多くなっていると感じている」とし、また探究の取り組みと、公立高校ということで教員の人事異動との関わりについての質問には、愛媛県教委では「(高校の教員は)大学の先生の研修を受けている」とし、堀川高校は「京都市内の高校で研究会を立ち上げ共同で研究している」と回答。
また大学受験との関わりに関しては、堀川高校は「テーマにもよるが探究活動は大学進学とそれほど親和性は低くない」などと答えた。そのほか同省の令和6年度予算案における関連事業:特別研究員制度(163億円)、博士後期課程学生の処遇向上と研究環境確保(0・3億円、令和5年度補正予算では499億円)、卓越大学院プログラム(36億円)、科学技術イノベーションを担う女性の活躍促進(22億円)、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)支援事業(23億円)、次世代科学技術チャレンジプログラム(STELLA)(9億円)などが同省から説明された。
最後に、狩野主査が100回目の委員会ということで、「今後の科学技術にかかわる人材像を考える」とのペーパーを提示、委員間で意見交換が行われた。狩野主査は、今後の「優秀・卓越」の定義は何か。「博士人材」として認めるために最低限必要な能力セットは何か、などの問いを提示した。委員からは「中等教育での文理選択は問題」「大学を学科で受けるようなシステムを止めた方がいい。米国は2次試験はないし、複数回受験でき、高校の成績が一番大事」「日本の子は学校と塾・予備校の二重生活がかわいそう」「初中教育に問題があると言ったら、大学入試に問題があると言われる」「日本では定員管理が厳しくて転科しづらい」「現状で評価されることが多いがポテンシャルを評価してほしい」「日本の研究力は本当に落ちているのか、研究力の定義を考えないといけない」といった意見などが聞かれた。