武庫川女子大学の取り組み

トルコ・シリア大地震から1年を機に公開セミナー

歴史都市アンタキヤの町並み復興を考える

武庫川女子大学(兵庫県西宮市)は3月16日、上甲子園キャンパス甲子園会館で、建築学部による公開セミナー「トルコ南東部を震源とする地震から1年 歴史都市アンタキヤの町並み復興を考える」を開催した。昨年2月に発生したトルコ・シリア大地震から1年が経過したのを機に実施したもので、トルコ・バフチェシヒル大学から建築デザイン学部長のムラツ・ドゥンダル教授が来日し、基調講演を行った。 

武庫川女子大学建築学部では、同地震発生直後に教員3人が神戸市職員2人と共にトルコに入り、被災全域の状況を確認した。その後、文化庁から令和5年度緊急的文化遺産保護国際貢献事業「トルコ共和国における歴史的市街地の復興に関する国際貢献事業」を受託し、調査・研究を進めている。 

特に、建築学の立場から、トルコ最南端のハタイ県にある歴史的都市・アンタキヤ旧市街の町並みについて、復興案のベースとなる意見書の作成を目指しており、今年2月23日から3月1日まで、建築学科の柳沢和彦教授と鳥巣茂樹教授が再度、アンタキヤを現地調査した。  

アンタキヤはその歴史から、モスクや教会など、多様な宗教施設があり、旧市街地では中央に水路が流れる路地や、中庭を囲むように部屋が構成された伝統的家屋などが独特の町並みを作り出していた。こうした伝統的町並みが2000年ごろから観光地として脚光を浴びていたが、今回の地震で壊滅的被害を受けた。  

基調講演でムラツ教授はアンタキヤの歴史的背景を紹介した上で、震災前、家屋が密集していた元の町並みと、がれきが撤去され、空間が目立つ現在を定点比較し、被害と現状を報告した。

第2部では、柳沢教授と鳥巣教授が再調査の報告と復興への提言を行った。柳沢教授は建築設計の立場から、復興に当たってはアンタキヤの町並みの伝統やアイデンティティーを継承し、地震に強い街づくりを目指すことを提唱。伝統的家屋は1階は石造、2階は木造だったことから「再建時には安易に小規模なRC造を増やさず、地元の建築家の意見を取り入れて、石や木や瓦といった伝統的材料を生かし、スケール感を維持する必要がある」と呼び掛けた。  

また、川や山のある景観、ミナレット(尖塔(せんとう))やドームが空に突き出すスカイラインの魅力を生かし、歩いて回れる観光都市を目指すことなど、9項目を提言した。  

鳥巣教授はアンタキヤの地形の特色として「三つのプレートがぶつかる地点で、古くから地震が多い一方、土地は肥沃(ひよく)で交通の要所であるという二面性がある」と説明。建築構造設計の立場から、文化財に登録された建物は一定の保護がなされているが、それ以外の歴史的建造物にも意義があり、被害要因を明らかにして耐震性の目標を設定すべきだと提言した。  

さらに、旧市街の町屋について「石と石の付着部が弱い。モルタルの強度を上げる必要もある」とした上で、「伝統的構法が必ずしも耐震性を有さないわけではなく、設計によっては倒壊を防ぐことはもとより、損傷を押さえることも可能である」と指摘し、基礎工事や鉄筋を入れる等の改善が必要と述べた。  

会場には設計事務所など、建築に関心のある人が多く詰め掛け、オンラインを含め、約100人が参加した。