科学技術・学術審議会 人文学・社会科学特別委開催

 

人文学・社会科学の振興、課題解決に向けて

推進方策などを検討 

文部科学省の科学技術・学術審議会学術分科会は6月6日に第23回人文学・社会科学特別委員会(主査=城山英明・東京大学大学院教授)をオンラインで開催した。

文科省から会議の中間まとめ案が報告され、人文学・社会科学の振興・課題解決に向けた推進方策として、(1)人文学・社会科学を軸とした課題設定型・異分野融合研究、(2)データ基盤の整備・運用、(3)研究成果の可視化とモニタリング、(4)研究成果の国内外への発信が挙げられた。

このうち、(1)に関しては、人文社会分野は他分野で使用する言語や概念と差異があり、共通理解が進んでいないこと、他分野の研究者と出会う機会が少ないこと、異分野融合研究の成果を評価する仕組みの未確立が課題だと指摘。   

これらの課題に対しては、研究者の交流の場の提供や研究者のマッチング・サポート、社会的インパクトを重視した評価、研究成果の可視化などが課題解消に向けた方策だ、とした。

また(2)に関しては、多くの競争的研究費制度では、データマネジメントプランの作成・提出が求められているが、対応が難しく、メタデータ・データ規格が国際標準に対応せず、データを利用した研究が非効率、データに通じた人材不足、育成機会の不足が課題だとし、その解消のための方策としては、相互運用性の確保のためのデータ規格のモデルガイドライン策定、データの構築・利活用に通じた研究者育成、データキュレーターなどの育成・確保を含むオープンサイエンスへの対応などがある、としている。

(3)に関しては、国際、国内ジャーナル論文での正確な研究成果の把握が困難で、人文社会科学分野の研究成果の重要なツールである書籍には体系的な指標が存在せず、対象となる書籍の範囲・総量が不明確なことなどがあること。   

これに対してジャーナル論文、書籍に関わる研究成果の可視化の調査分析の推進、論文などの研究成果だけでなく、多様な社会的インパクトを重視した成果が分かる新たな指標の開発の検討などを、方策として列挙している。   

(4)に関しては、社会一般への発信に関して、人文社会科学分野と自然科学分野では研究者に意識の違いがあり、興味深い研究成果が社会に知られていないこと、外国語での発信が不十分なことなどが課題だとしている。   

これら課題の解消に向けては、広報の専門人材の育成・確保、専門家以外にも理解しやすい発信をすること、研究の国際発信のための国際的なネットワークの構築などが方策だと指摘している。

 こうした中間まとめ案に対して意見交換が行われた。

異分野融合に関して複数の委員から、「異文化融合はハードルが高い。目指したいが専門分野でしっかり足を置いた上でできること」「異分野融合に絞り過ぎない。人文社会科学内の融合、例えば言語学と文化人類学、文学と歴史学の融合などもある」「異分野融合は自分の学問の幹や枝を太くするためのツールと考えたい。異分野融合ばかりに力を入れていると研究の道を踏み外す恐れがある」などの意見が出された。   

その他、研究成果の海外発信に関して意見があり、「人文社会科学分野が海外から評価を受け、グローバルに貢献することも重要なミッションという視点を入れたい」「論文の英語での発信は容易ではない。論文のタイトルとアブストラクト(要旨)で検索できるシステムを確立させたい。生成AIは要約が得意なのでアブストラクト作成に使える」といった意見が出された。   

また「人文社会科学の研究は、目に見えないものであるが、巡り巡って世界を変えていく力になることが研究者の心の支えになっているので、そういった研究者のマインドセットも入れられないか」「研究の入口に当たるDX化と出口となる研究の評価・広報をつなぐ、研究のプロセス部分の記述が欲しい」といった提案もあった。

最後に城山主査からは「人文社会科学の研究は、課題解決よりも課題設定にミッションを置いてきたので、そのことも触れておくとよいのではないか」との意見が出された。