私大連盟新たな公財政支援のあり方で報告を発表
大学教育の質上げるため公平な競争環境整備を提言
一般社団法人日本私立大学連盟(会長=田中愛治・早稲田大学総長)は8月7日、東京・市ヶ谷の私学会館で記者会見を開き、「新たな公財政支援のあり方について」と題する報告を発表した。この報告書は、日本社会が今、加速する人口減少、産業構造や国際情勢の変化、テクノロジーの急速な進展など大きな転換期に差し掛かっている中で、質の高い教育研究によって学生一人一人の能力を高めていくことが極めて重要で、学生の約8割の教育を担う私立大学がどれだけ質の向上を図れるかが鍵で、大学教育を将来の社会発展に向けた人的投資と捉え「教育国債」を創設すること、国公私立大学の設置形態に関わらず、大学教育の質を上げていくための公平な競争環境を整え、協調と競争を促していくことが重要との基本的な考え方に立って、予算関係で6つの具体的提言を、税制関係では2つの提言をしている。教育国債としては約2兆円を想定しており、そのほか、国立大学の運営費交付金、私立大学の経常費補助金等を合計して「教育財源」(約4兆2千億円、授業料は含まず)として、機関補助(私立大学・国立大学)及び個人補助(修学支援新制度の授業料減免や給付型奨学金)に再配分すべきだとしている。
予算関連では、(1)私立大学等経常費補助(一般補助)の圧縮率の撤廃。同一般補助は基盤的経費として申請による教員や学生数に基づき算定されているが、申請の総額が予算額を上回ると、圧縮率により調整され全私立大学一律に減額される。令和5年度の圧縮率は56・9%。圧縮額は1984億円。(2)質の高い教育や大学改革に必要な私立大学の施設・設備に対する補助要件の撤廃、支援拡充。地域社会の課題解決や地域のセンター的役割、災害時の避難所、大学の解散時は他の学校法人に引き継がれるか国に帰属する私立大学の公益性を考慮して2分の1補助要件の撤廃を求めている。また質の高い教育研究を提供する私立大学に対しては、「集中改革期間」を設けるなど施設・設備に対する支援を拡充すべきとしている。
(3)修学支援新制度における国私の学生間に生じる格差是正と所得中間層への支援拡充、(4)学生の事情に応じた奨学金制度(特に給付型奨学金)の整備、(5)国立大学の授業料の柔軟化(授業料の上限規制を撤廃するなどして収入増により学生に対する更なる質の高い教育を実施、国際競争力を強化し高度専門人材を育成する)、(6)授業料後払い制度の範囲拡大(学部学生にも範囲を拡大し、学費負担方法の選択肢の一つとすべきだ)を求めている。税制関係では、(1)私立大学生の授業料全額を所得控除する制度の創設・拡充、(2)税額控除対象法人となっている私立大学への個人寄附に係る税額控除率(現行40%)の拡充を求めている。
同報告は、同連盟の曄道佳明副会長(上智大学学長)が委員長を務める将来の高等教育のあり方と新たな公財政支援を考えるプロジェクト委員会が今年2月から5回にわたって検討を続けてきたもの。8月7日の記者会見には田中会長、曄道副会長・同委員会委員長のほか、前田裕副会長(関西大学学長)、篠原聡子・常務理事(日本女子大学学長)・同委員会委員が出席した。