甲南大学の取り組み
中高生対象の公開講座で宇宙X線観測解説
人工衛星を用いて宇宙の全体像観測
甲南大学(兵庫県神戸市)は8月26日、同大学ネットワークキャンパス東京事務所(東京都千代田区)で「宇宙X線観測と宇宙科学衛星の開発について」と題し、中学生・高校生を対象とした公開講座を開催した。
同講座前半の講演は、同大学理工学部物理学科の准教授で、X線天文衛星XRISM(クリズム)の開発に携わった田中孝明氏が講師を務めた。XRISMは2023年9月7日にH―ⅡAロケット47号機によって打ち上げられ、地球の上空約550キロを周回しながら、さまざまな天体から放射されているX線を観測している。
後半は多様な宇宙科学衛星の開発に関わってきたJAXA宇宙探査イノベーションハブ技術主幹の上野宗孝氏と、田中氏がパネルディスカッションを行った。
参加した中高生約30人は熱心に聴講し、質疑応答の時間には積極的に質問していた。
講演の冒頭、田中氏は同大学を紹介する中で、現在推進している「進化型理系構想」を説明した。同構想は次世代の科学技術をけん引し、社会課題の解決に貢献する理系人材を育成するため、同大学の理系学部全体を進化させる取り組みとなっている。この中で、理工学部の再編、学科の新設・改組(設置構想中)を行い、2026年4月に宇宙理学・量子物理工学科(物理学科を改組)、環境・エネルギー工学科(新設)、物質化学科(機能分子化学科を改組)、生物学科の体制とし、知能情報学部知能情報学科、フロンティアサイエンス学部生命化学科と合わせて、理系学部を3学部6学科とすることを計画している。
また、2027年に岡本キャンパスのサイエンスエリア(西・北校舎エリア)に新理系棟を開設し、学部生、大学院生、教職員が集い・憩い・交流するサイエンスゾーンとする予定。
田中氏は「進化型理系構想」に関して、「今まで以上に宇宙のことを学びやすいカリキュラムにしていく」との考えを示した。
続いて、田中氏が専門としているX線天文学、ガンマ線天文学と、それに向けた装置開発における、これまでの研究に関して話した後、X線による宇宙観測について、X線で見た超新星残骸、銀河団など、さまざまな天体の画像を用いながら解説。宇宙の全体像を観測するためにはX線や他の波長の電磁波で見ることが大切なことや、X線は大気で吸収されてしまうため、人工衛星を用いて観測することなどを説明した。
XRISMについては、より高い精度でのX線観測を目指して開発しており、JAXAの他、NASAやESA(欧州宇宙機関)、国内外の大学、研究機関と協力して観測装置の開発・試験、打ち上げ後の観測立案を行い、現在、初期観測を実施していると述べた。
まとめとして、▽X線で宇宙を観測することで高温の天体や高エネルギー現象を見ることができる▽X線によって超新星の爆発機構などの謎の解明が進みつつある▽XRISMによってさらなる観測の進展が期待されている―と話した。
パネルディスカッションでは、上野氏と田中氏が衛星プロジェクトの決定までのプロセスや、基礎開発から衛星開発、打ち上げまでの流れなどを語った。
衛星プロジェクトの着想に関して、田中氏は「今までの科学的成果からの発想と、観測装置の基礎開発からの発想のバランスが大切である」とした。上野氏は「X線による宇宙観測が始まった当初は観測装置の基礎開発からの発想の方にウエートがあったが、次第に科学的にできることをよく考えなくてはならない時代になってきている」と述べた。
さらに、プロジェクトのタイムラインや、熱真空試験、振動試験、音響試験など人工衛星に必要な試験などについても解説。計画から打ち上げまで10年以上もかかり、検査にも多くの人員と費用が必要となることなどを話した。