中教審第12回高等教育の在り方特別部会開催

「答申」の素案を審議
大学等の価値の社会への周知、東京一極集中懸念の意見等
中央教育審議会大学分科会高等教育の在り方に関する特別部会(部会長=永田恭介・筑波大学長)は11月12日、文部科学省で第12回特別部会を開いた。
この日は、今年8月に同特別部会が取りまとめた中間報告をベースに、その後、実施した関係団体等からのヒアリングで示された論点や、8月以降の特別部会の審議状況等を反映して作成された、答申(素案)「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について」が文部科学省から示され、審議が行われた。また部会長等から特別部会委員に任意提出を要請されていた自身が考える「政策パッケージ」が7人から説明された。
答申(素案)は、「はじめに」を除くと、(1)今後の高等教育の目指すべき姿、(2)今後の高等教育政策の方向性と具体的方策、(3)機関別・設置者別の役割や連携の在り方、(4)高等教育改革を支える支援方策の在り方の4章構成で、全体で72頁。(1)の今後の高等教育の目指すべき姿のうち、近年の社会を取り巻く変化、近年の高等教育を取り巻く変化、これまでの高等教育政策については素案最終部に補論として示されている。また(2)の今後の高等教育政策の方向性と具体的方策に関しては大幅に追記がされており、学生が主体的・自律的に学修するための環境構築の促進、「出口における質保証」の促進、大学設置基準及び設置認可審査の見直し等、定員管理方策の見直し、認証評価制度の見直し、通信教育課程の質の維持向上等に関する記述等のほか、研究力の強化について新たに記述が追加され、高等教育全体の「規模」の適正化に関しても追記、修正が行われている。
設置認可審査のうち学校法人の寄附行為(変更)認可審査において財産保有要件や経営状況等に関する要件の厳格化、リスクシナリオ等に関する審査の見直し、私立大学の公立化のプロセスにおいて留意すべき事項等の明確化等を記載。
また再編・統合の推進に関しては、定員未充足や財務状況が厳しい大学等を統合した場合のペナルティ措置の緩和等を、縮小・撤退への支援に関しては、一定の条件を満たす場合に一時的に減少させた定員を一部又は全部戻すことを容易にする仕組みの創設等が盛り込まれている。
高等教育への「アクセス」確保に関しては、地域の人材育成・アクセス確保について議論を行う場の構築等が示されているが、都市から地方への動きの促進等が大幅に追記されている。具体的には大都市圏の高等教育機関による地域連携の取り組みの促進、遠隔・オンライン教育の推進等が記述されている。
(3)の機関別・設置者別の役割や連携の在り方や、(4)の高等教育改革を支える支援方策の在り方については、まだ十分踏み込んだ議論は行われていないため、第12回特別部会では、文科省から、国公私立大学等の役割・機能や連携(大学等連携推進法人の活用を含む)の在り方を踏まえた、規模の見直しや連携・再編等を促進するため方策、機能別の観点を踏まえた役割や連携の在り方、公財政支援、個人・保護者負担、社会からの投資の在り方について短期(約2~3年)、中長期(約5~10年程度)別の在り方、高等教育に対する、社会からの信頼の獲得方法などについて議論が要請された。
また委員提出の政策パッケージでは、国立大学を中心とした大学院への定員シフトや、5年制大学(修士課程)の制度化による質向上、マイナンバーカードの普及・活用、消費税率の上昇等で財力に左右されずに高等教育を受けられるようにすること、新たな認証評価制度による教育面で質の低い大学の強制退場、23区の定員抑制のような政策の全国への拡大等が提案されていた。
文科省からの提案(答申素案)に委員からは、「学生数の減少に対する危機感が大学にはまだない。地域も大学が何をやっているのか理解していない」「学生数の減少に合わせて大学の研究者が25%いなくなって良いのか」「(学生数の減少については)文部科学省のほか、高等教育に関する省庁が協力しなければいけない」「大学の価値があまりにも社会に伝わっていない」といった意見が聞かれた。また高等教育の規模やアクセス確保の観点から、「東京23区の大学の定員抑制を考えるべきだ」など東京一極集中の是正を求める意見が複数委員から出され、大学等連携推進法人の運営や国公私の壁について、「国立大学が中心となって進めてほしい」といった意見や「連携推進法人に入ったら国公私立とも授業料を同じにすれば壁はなくなる」といった意見も聞かれた。
大学等連携推進法人を各地域に設け、各国公私立大学の連携、役割分担をどう進めていくのかが大きなポイントのようで、その運営の中核を担う専門的コーディネーターをどう確保・養成し、経済的に成り立つ組織にするのかなどが課題のようだ。
特別部会では答申素案の審議に先立って、尾花正啓・和歌山市長が、市内に大学、短大が3校しかなかったため、若年層の県外流出(和歌山県の県外大学進学率が89.6%で全国ワースト1位:平成27年度)が深刻で、看護師、保育士、理学・作業療法士、薬剤師といった専門人材の確保も難しかったため、公立小中学校が閉校した跡地を有効活用するなど初期投資を抑える形で、新たに東京医療保健大学、和歌山信愛大学、宝塚医療大学の誘致を実行したことを説明。その結果、40年以上続いた県外進学率ワースト1から脱却(令和5年度は全国41位)、市内大学卒業生の県内就職率も平成30年度の28.3%から令和5年度には42.1%に上昇、大学生が市内の中学生・高校生向け体験授業を行い、大学生による社会貢献活動も広がり、地域での就職につながるなどの成果を上げていることなどを報告した。