中教審第110回大学院部会開く
人社系大学院改革の方向性など引き続き検討
学部生対象に大学院進学で大規模な意向調査
第12期中央教育審議会となって初の大学分科会大学院部会(通算第110回)が6月5日、オンラインで開催された。冒頭、部会長に湊長博・京都大学総長が前期に続き選任され、文部科学省から今期大学院部会の審議の方向性や、今年5月から6月にかけて実施する、人文科学・社会科学系の学部学生と、理学・工学・農学系の学部学生の大学院進学に対する意向調査が説明された。意向調査は人社系で約27万人(4年次以上)の学生を対象に想定、こうした大学院進学に関する大規模意向調査は初めて。理工農系学生調査は、人社系調査の対象大学から無作為に抽出した100大学の内、理工農系学部・学科を持つ27大学の4年次以上の学生約2万人を対象とする予定。
第11期大学院部会では昨年8月に公表した中間とりまとめの中で、人文科学・社会科学系の高度人材の能力や活躍が、当事者である学生も含め、大学院と産業界等の社会との間で十分に理解・共有されていないなどの課題を指摘、両者間の相互理解・協働に向けた教育研究プログラムの推進と体制の構築などの大学院改革の方向性を提言。
それを受け第12期大学院部会の審議事項例としては、大きく分けて(1)人文科学・社会科学系大学院の改革方向性、(2)今後の大学院教育の改革振興策、(3)大学院におけるリカレント教育、(4)制度改正事項を挙げている。
このうち(1)に関しては、昨年の中間とりまとめで不足していた人文科学・社会科学系の学部学生に対する進路に係る意向調査、大学院の好事例や産業界等からのヒアリング等を実施し、任期の2年間内に最終とりまとめを行う予定。(2)に関しては今後の大学院教育プログラム支援方策の在り方について検討を行い、一定の方向性をまとめる。大学院における分野横断的な教育研究やリカレント教育のさらなる推進、大学院における基幹教員の導入等に係る検討状況を踏まえながら必要な要素を盛り込み、令和7年度概算要求につなげる。(4)では大学院における基幹教員や質保証システムの在り方について検討、教職大学院で入学資格の有無にかかわらず入学前既修得単位を勘案した在籍期間の短縮を可能とする改正が行われたが、大学院および他の専門職大学院での扱いについて検討することにしている。
この日は、大学院改革の大きな論点である社会人のリカレント教育に関して、大学と企業とが連携した博士号取得支援の取り組みが、㈱島津製作所の山本靖則代表取締社長等と大阪大学の田中敏宏・理事・副学長からそれぞれ報告され、大学院部会委員との間で質疑応答が行われた。
この取り組みは、大阪大学修士課程の学生が島津製作所に正社員として就職、その後、阪大大学院博士課程に派遣され、活動拠点である阪大キャンパス内の協働研究所で研究を続け、博士号を取得後、同社で研究成果の社会実装を目指すというもの。
こうした取り組みについて、部会委員からは評価する意見が多く聞かれ、「企業が支援しているので、社員に制約がかかるのか」「予算規模や運営費を教えてほしい」などといった意見や、島津製作所に人社系人材の受け入れの可能性を尋ねた質問に、同社は、ヘルスケア分野の機器等の研究開発では人と関わるデータの取り扱いや人の感性への働きかけなどで理系・人文系に通じる人が必要だ」とし、人社系についても高度人財育成を進める意向を明らかにした。