福岡工業大学の取り組み

XR技術を利用したメタバースを授業に導入

学生の学びに与えるプラスの影響を実証

福岡工業大学(福岡県福岡市)生命環境化学科の赤木研究室はこのほど、クロスリアリティー(XR、現実世界と仮想世界の融合)技術を利用したメタバースを授業に導入する取り組みを始めた。

メタバースプラットフォームの研究開発と実証実験に取り組む民間の非営利団体MPUF(Microsoft Project Users Forum)の枷場博文氏らと共同研究を行い、メタバースが学生の学びに与えるプラスの影響について実証する。身体性を持ったアバターで自由に行動できる空間では、より主体的な授業への参加を促すことができる可能性があることに加え、客観的な把握が難しかった学生たちの関心や意欲の度合いについても行動データからより詳しく把握することができ、指導に役立てる効果も期待されている。

赤木研究室はメタバース上に複数の交流空間「Akagi Lab」を制作している。アメリカの夜の町並みや、宇宙空間などに近づけた空間上で、Labの参加者はそれぞれが自分でデザインしたアバターで空間に入り、歩き回る、あるいは空中を飛行するといった、自由な動きで視点も変化させながら、交流を楽しむことができる。

作成中の「細胞空間」では、ミクロサイズになった感覚で生物の細胞内部に入り込み、細胞内部の構造を3Dで体感して学べる。今年度からバイオや化学などの分野に取り組む生命環境化学科の1年生の必修科目「生命環境基礎」でも一部を紹介し、希望する学生には体験してもらう予定になっている。

XR空間では、現実空間に近いコミュニケーションが可能で、音声での会話はアバター間の距離に応じて音量が変わり、グループに分かれてディスカッションを行うこともできる。講義内容に対してリアクションを送る、レーザーポインターを使用する、空間内に「ふせん」を貼ることも可能だ。

XR空間の「Akagi Lab」は赤木研究室で開催されるゼミナールでも活用されている。さらに、研究室ではこれまでにもメタバースで開かれた学会のポスターセッションに参加するなどの経験を積んできた。

メタバースで授業を受けた学生たちからは「アバターが身体性を持つことで映像のコミュニケーションよりも温かみを感じた」「メタバースを使うことで、話しづらい目上の人とも学会で気軽に話せる」「非日常的な空間で高揚感を感じた」などの意見が寄せられている。

XR空間では、対面のコミュニケーションが苦手な学生でもアバターを介して活発に議論ができるようになる可能性もある。また、XR空間での学びのメリットには「学生の意欲や関心度合いの客観的な把握」があることから、メタバース上での学生たちの発話量や移動距離、リアクションなどのログをデータ化することで、これまで曖昧に評価されがちだった意欲や関心度を可視化して客観的に評価することを目指している。

加えて、赤木研究室は情報システム工学科の田村研究室と協力して、メタバースでの学習が学生に与える効果について脳科学の分野からも調査している。脳が活動するときに生じる脳波を計測し、脳の働きを客観的に計測する研究に取り組む田村研究室と共に、仮想空間での学習中に脳波の動きを計測。メタバースでの学習で感じる没入感やワクワク感が学びに与える影響を脳の状態から客観的に把握して、より良い学び空間を構築していく考えだ。