武庫川女子大学の取り組み
トルコ南東部を震源とする地震被災地調査報告会
調査結果の分析から導き出した提言発表
トルコ南東部を震源とする地震から半年となるのを機に8月5日、兵庫県「トルコ地震復旧・復興応援プロジェクト」支援事業「トルコ南東部を震源とする地震の被災地調査報告会」が兵庫県西宮市の武庫川女子大学公江記念館で開かれ、建築関係者、研究者、行政の担当者、防災ボランティアなど約60人がオンラインと対面で聴講した。
同大学建築学部の教員3人は神戸市職員2人と共に4月12日から20日までトルコ共和国を訪れ、イスタンブールからアダナ県に入り、カフラマンマラシュ県オニキシュバト地区、ハタイ県アンタキヤ地区等で調査を進めた。帰国後、約3カ月かけて調査結果を分析するとともに、そこから導き出した提言をまとめた。
報告会では、建築学部長の岡崎甚幸教授が長年にわたる同大学とトルコとの交流について説明。2008年にトルコ・バフチェシヒル大学と一般交流協定を結び、主に建築学部で留学生の交換があることや、2011年のトルコ・ヴァンで発生した地震でも神戸市と連携して被災地調査を行ったことなど、今回の調査に至る経緯を伝えた。
調査報告では、現地調査を行った5人が報告を行った。建築学科長の柳沢和彦教授は現地調査の概要を説明し、将棋倒しになった建物など各地の被災状況を写真を交えて示した。
続いて、建築学部の田川浩之教授が耐震構造の視点から「地震の強さと被害の状況」、鳥巣茂樹教授が構造設計の視点から「建物の具体的形態と被害の状況」、神戸市建築住宅局の田中幸夫建築指導部長が「被災自治体首長訪問およびテントやコンテナ仮説住宅の視察」、柳沢教授が「歴史的建造物の被害事例」について報告した。
阪神・淡路大震災よりも震度が小さい地点でも大きな被害が出ていることを踏まえ、調査結果を基に、鳥巣教授が提言を発表し、(1)トルコの現行の耐震基準の妥当性を検証する(2)天井や壁などが落下して人命に危害を及ぼさないよう、非構造部材の耐震性を確保する(3)トルコでは鉄筋コンクリート造建物で帳壁(荷重を負担しない壁)を無筋の組積造で作ることが多いため、帳壁を補強する(4)非構造部材を軽量化する(5)隣接建物の間隔を確実に開けて地震時の互いの衝突を防ぐか、逆に一体化して耐震性を高める(6)落下が目立ったモスクのミナレット(尖塔(せんとう))の耐震補強法を開発する―の6項目を呼び掛けた。
また、神戸市危機管理室の能勢正義計画担当課長は自治体の立場から、日本やトルコ等の被災自治体の経験を共有する国際的な仕組みの構築と、震災に関する国民意識の醸成と向上の二つの提言を発表した。
報告会には、トルコからオンラインでバフチェシヒル大学建築デザイン学部長のムラツ・ドゥンダル教授も参加し、被害を拡大させた問題点として「建築家だけでなく、自治体、建物のオーナー、住む人など建物に関わる全ての人が災害に対して必要十分な認識を持っていなかったこと」を挙げ、同大学に防災安全センターを開設する構想を明らかにした。